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2011年10月20日 (木)

大技

  太陽系内を航行中の宇宙ヨット「イカロス」が大技をやってのけた.

  「イカロス」は,ゆっくりと回転することで,セイルの四隅に取り付けられた重りに働く遠心力で,四角形のセイルをピンと張っている.
  その「イカロス」が,逆スピン運用に成功したとのことだ.

  たかが逆回転じゃないか.

  そう思うなかれ,宇宙にある探査機がそれまでと逆に回転するというだけで大変なことなのだ.

  「角運動量保存の法則」というものがあるので,一軸を中心にして回転している物体は,その姿勢が安定する.コマが回っていられるのも,自転車が倒れないのも,この法則があるからである.宇宙においても,探査機をとりあえず回転させておけば姿勢は安定するので,宇宙開発初期の人工衛星などは,機体全体が回転することで一定の姿勢を保っていた.現在では,その「回転する物体」を探査機や衛星内部に持っている(「はやぶさ」でちょくちょく登場する「リアクションホイール」というのがそれだ)ものが多いので,機体そのものは回転せずに済む.また,そういった場合でも,探査機や衛星に異常が発生した場合に備え,「セーフ・ホールド・モード」が用意されている.これは,姿勢制御を含め,ほとんどの機能を停止するかわりに,機体全体を回転させることが多い.回転させておけば,とりあえず姿勢が安定するからである.

  とりあえず回転させておけば安心,というわけだ.

  その回転を止めてしまうというのは,地上のスタッフにとって非常に恐ろしいものである(と思う).

  通常の探査機でも恐ろしいことだが,「イカロス」の場合はさらに恐ろしい.
  上に書いたように,「イカロス」のセイルは,回転していてこそ,ちゃんと張った状態に保たれる.この回転を止めてしまうということは,セイルの形状を保てなくなるかもしれないということなのだ.さらに,それを逆回転させるとなれば,悪くすればセイルが絡まって二度と元の形状にすることができなくなってしまうかもしれない.地球からはるか離れた宇宙を航行しているので,「そこへ行って直す」なんてことはできないのだ.

  「イカロス」は技術実証試験機である.このように危険な実験を実施したのは,セイルの形状に影響を与えるようなことをわざとやってみて,それによる変化をしっかり知っておこうという理由による.たとえ「イカロス」を危険に晒してでも,後に続く「宇宙帆船」のために,地上ではできない実験をしっかりやっておこうというわけだ.

  この運用の際に起こったセイルの形状の変化などはこれからの解析で明らかになるようだが,「イカロス」はちゃんと逆スピン状態に移行することができたらしい.見事大技をやってのけたというわけだ.

  あの「はやぶさ」の状況を伝え続けたツイッター「はやぶさ帰還ブログ」の「IES兄」さんによると,“「後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり」に負けないくらい素晴らしいトライ”なのだそうな.

  「イカロス」の推進剤も残りわずかとなっているらしいが,可能な限り長く宇宙を飛びつづけ,貴重なデータと経験をもたらしてくれることに期待したい.

 

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